麗しの狂者たち【改稿版】
「…………え?来夏君これって?」
目の前に差し出された箱を前に私は目が点になり、その場で動きが固まる。
これは、どこからどう見ても指輪が入っている箱であり、そんな大事なものをまるで飴玉でも取り出すかのように随分と雑に扱われ、私は先ず何からつっこもうか頭を悩ます。
「良かった。サイズ大丈夫そうだな」
すると、何も反応しない私にはお構いなしにと。
来夏君はいつの間にやら箱から取り出した指輪を、私の左手の薬指にはめていた。
「本当はまだもう少しかかるって言われてたけど、予定より早まって今日届くって連絡が入ったから。これを美月に早く渡そうと思って」
そして、ようやく事の次第を教えてくれると、私の薬指にはめた指輪を愛おしそうに眺めた。
まさか、裏でこんな物を用意してくれていたとは。
彼らしからぬ粋な計らいに不意をつかれた私は、感動で言葉を失い、薬指に光るシルバーの指輪に目を向けた。
それはダイヤのような石とハート形のモチーフが組み合わさった、シンプルだけど、とても可愛らしいデザイン。
「今はこんな安っぽいのしかあげられないけど、いつかこれよりも百倍以上の価値がある物を渡すから。だから、それまで待ってろ」
暫くの間感無量で指輪を眺めていると、これまた意表をつかれた彼の言葉に、私は再び驚かされた。
そして、私の頬に彼の手がそっと添えられ、唇を指でなぞり始める。
それから、来夏君の顔が徐々に迫ってくると、唇が触れそうになる手前で、私は咄嗟に彼の口を手で抑えた。
「ダメ。もっとはっきり言ってくれないと嫌」
「んだよ。めんどくせーな」
やはり、ここはちゃんとした言葉が聞きたくて駄々を捏ねたら、顰めっ面で容赦無く小言を返されてしまい、若干傷つく私。