麗しの狂者たち【改稿版】
また、今度って。
副会長の前で不純異性交遊的発言をするなんて、これは完全に挑発行為なのでは?
そう言いたかったけど、怒りの矛先を失ってしまった今。
私は喉まで出かかった言葉を飲み込み、握り締めた拳を仕方なく緩めた。
「……で。あんたもいつまでここにいるんだ?用が済んだらさっさと何処か行ってくんね?」
けど、追い討ちをかけるように八神君から鬱陶しがられ、一度鎮静しようとしていた怒りが再び上昇し始める。
昨日は離してと言っても解放してくれなかったのに、この態度の変わりようは一体何なのか。
やっぱり昨日のはただの気まぐれだったんだと。
そう確信付くと、これ以上彼に構うのもバカらしくなり、とりあえず、地面に転がっているタバコを回収しようと手を伸ばした時だった。
その隣に置いてあった一冊の分厚い本にふと目がいく。
背表紙を見た限りだと、経済学の専門書だろうか。
なんともこの場に似つかわしくない物に、私は動きが止まる。
「八神君これって……?」
誰かの忘れ物かと思ったけど、彼のすぐ脇に置いてあるということは、八神君の物で間違いなさそう。
普段の彼からはとても想像出来ない所有物に、意表を突かれた私は目を瞬かせた。
「見ての通り勉強中だ」
そんな私の質問に、八神君はとても面倒くさそうな表情で答えると、転がっていた専門書を拾い上げ、ページをめくっていく。
「……いや、見ての通りって。今さっきまであの人といかがわしいことしてましたよね?」
全くもって説得力に欠ける彼の発言に、聞き流そうかとも思ったけど、先程から煮えたぎる感情をどうにも制御出来ず、つい言い方がキツくなってしまった。