麗しの狂者たち【改稿版】
あの八神君が勉強……。
しかも、経済学なんて高校レベルだと基礎的なことしか授業でやらないのに、彼が読んでいたものはもっと専門的な内容だった。
もしかしたら、彼が授業に出ない理由は、彼の求めている内容ではないからなのか……。
そんなことをぼんやりと考えながら、私は先程取り上げたタバコの吸い殻にふと目を向ける。
普段はただの不良生徒でしかないのに。
いつもいい加減で、やりたい放題で、人の言うことなんて聞く耳持たずで、周りに迷惑ばっかりかけているのに。
それなのに、なんだか悔しい。
そんな彼にも、何か大きな目標があって動いているのだとしたら。
あの時言われた“操り人形“という言葉が、余計皮肉に聞こえてきて、益々腹立たしくなってくる。
……けど、ここで怒っても仕方がない。
私は私で、八神君は八神君なんだから。
そう自分に言い聞かせると、小さく深呼吸をして荒れた心を落ち着かせる。
とりあえず、今日のやることはまだ終わっていないので、来た道を引き返そうと、廊下の突き当たりを曲がった。
そして、見つけたタバコはバレないようティッシュに包んでそっとゴミ箱に捨てる。
我ながら何とも甘い処置だなと思いながら、私は深い溜息をつくと、そのまま職員室へと足を運んだのだった。