麗しの狂者たち【改稿版】
◇◇◇




「……店長。なんか他に楽しい事ないっすか?」

ようやくピークの時間帯が過ぎ、ある程度客が引いたところで、俺は休憩室で店長と一服しながら気だるく絡む。

「あ?もう十分教えただろ?」

それを面倒くさそうに、スマホを見ながら受け流すバイト先の店長。

「暇してんなら働け。こっちは最近一人辞めたから人手が足りてねーんだよ」

「いや、俺一応学生ですけど?」

しかも、どさくさに紛れて危うくシフトを増やされそうになり、間髪入れず阻止した。

「……にしても今日の団体客、随分と忖度だらけな飲み会でしたね。側から見てて引くレベルだったんすけど」

それから、いつにも増して襲ってくる疲労感に押し潰されながら、俺は深い溜息と共に煙を天井高く吐く。


「お前もいずれは、ああなるんだぞ」

「いや。俺、店長みたいに経営者目指すんで、あんなくだらない事はしねーっす」

「いいなあ、若いって」

そして、自分の将来を軽く語ったら、乾いた笑いと皮肉が返ってきて、腑に落ちない俺は店長を軽く睨みつけた。


「言っとくけど、経営者が一番大変なんだぞ。お前が考えるよりも何倍も人に頭下げて此処まで来たんだ。世の中そんな単純じゃねーよ」

「分かってますよ。別に、自分の目的の為であれば、頭は幾らでも下げられるんで」

「……ったく。本当にああいえばこういう奴だな」


どうやら、生意気な俺の発言が気に食わなかったようで。

店長は軽く舌打ちすると、二本目のタバコを取り出し、不機嫌そうに火を付けた。
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