呪われ王子の甘い愛情
第一話
(プロローグ)
○教室(放課後・停電・雷雨)
教室の後方、壁に背を向けて立つ柳木ココロ。
その目の前には、壁ドンの姿勢で望葉柊が立っている。
柊の顔は前髪で隠れており、表情が見えない。
雷が光った瞬間、柊の前髪の隙間から目が見える。
真っ直ぐにココロを見つめる、真剣な眼差し。
金縛りに合ったように顔を赤くして動けないココロの頬を柊の手が撫で、ココロの顎を上に向ける。
二人の唇が近づく。
(プロローグ終わり)
○体育館(入学式)
生徒がパイプ椅子に並んで座っている後ろ姿。
その中の一席から生徒が崩れ落ち、悲鳴が上がる。
壇上に上がる途中だった柊が足を止めて、騒ぎの中心を見ている。
倒れてお腹を抱えているのはココロだった。
騒ぎになり、救急車が学校に到着する。
○職員室(朝)
ココロ「いやー、すみません。入学早々お騒がせしました」
担任の机の前で苦笑いをしているココロ。
担任「もう大丈夫なのか?」
ココロ「破裂寸前だったとはいえ、ただの虫垂炎なんで。手術も無事に終わったんで、へっちゃらです」
心配する担任に対して、こぶしを握って元気アピールするココロ。
担任「まだ無理はするなよ」
ココロと話していた担任が、なにかに気がついたように顔を背ける。
担任「ああ、ちょうどいいところに」
片手を上げて、誰かを呼ぶ担任。
担任「望葉くん」
担任の視線の先には、書類を片手に教頭の机から離れようとしていた柊がいた。
無表情で冷たい目をしているが、整った顔立ちをしている柊に頬を染めるココロ。
柊「なんですか?」
担任「入学式で倒れた柳木ココロさん。今日、復帰してきたんだ。オリエンテーションとか出られてないから、いろいろ教えてあげてくれないか」
担任に紹介され、深々と柊に向かって頭を下げるココロ。
担任「生徒会長の望葉柊くんだ。頼りになるから」
担任がココロに柊を紹介するが、柊はココロをじっと見つめてなにも言わない。
担任「えーっと、まずは校内の案内からでも」
黙ったままの柊に困惑しながらも担任が言う。
柊「承知いたしました」
担任に頭を下げるとココロの方を見ずに歩き出す柊。
慌てて自分も担任に頭を下げて柊の後を追いかけるココロ。
○廊下
職員室から出てくる柊。
少し遅れてココロも出てくる。
二人の距離は空いている。
遥香「ココロー!」
廊下の奥からクラスメイトの長月遥香が駆けてきて、ココロに抱きつく。
遥香「心配したんだよ!」
ココロ「遥香! ごめんね、心配かけて」
親友の登場に嬉しそうに笑うココロ。
ココロ「いやー、入学式だからって痛いの我慢してちゃダメだね」
苦笑いするココロ。
柊「もう友達がいるんだな」
立ち止まってその様子を見ていた柊。
柊の姿に気がついた遥香はココロから離れて姿勢を正し、緊張した様子を見せる。
ココロ「中学が一緒だったんで……」
柊「なら、オリエンテーションの内容は彼女に聞け。校内案内も必要ないな」
二人から目を逸らし、手元の書類に目を向ける柊。
柊「悪いが、外部生の相手をするほど暇じゃないんだ」
冷たい物言いに少しムッとするココロ。
遥香は怯えた様子。
柊「なにあればオマエが生徒会室に来い。放課後はだいたいそこにいる。学園の品位を落とすようなことはするなよ」
そう言い残して立ち去る柊。
ココロ「なにアレ、感じ悪っ」
柊が立ち去った方を睨んでるココロ。
遥香「緊張した〜」
柊がいなくなり、ホッとした様子の遥香。
遥香「でもラッキー。王子をこんな間近でみちゃった」
目をキラキラさせている遥香。
ココロ「オオジ? 望葉先輩じゃないの?」
遥香「そう、望葉先輩! 望葉グループの御曹司! 由緒ある家柄であのルックス。正に王子様でしょう!」
キラキラした目で口調に熱がこもる遥香。
遥香「幼稚園舎からのエリート組で、入学式の代表挨拶でハートを射抜かれた外部生多数! 学内ファンクラブとか、マンガの世界だけだと思ってた」
ココロ「あるの!?」
驚いて遥香の方を見るココロ。
遥香「あるの! 活動はひっそりとしたものだけどね……みんな、呪われるのが怖いから」
脅かすようにニヤリと笑う遥香。
ココロ「呪い……?」
遥香「王子の不興を買うと、呪われるのよ。王子にストーカーした女生徒とか、去年の生徒会選のライバルとか……みんな、不慮の事故とか病気とかで休学したり退学したり……」
手を垂らした幽霊のポーズで話す遥香。
遥香「まあ、そんな噂は抜きにしても冷徹生徒会長だし、見れたらラッキーだけど、あんまりお近づきにはなりたくないタイプかなー」
ココロ「確かに」
頷きながら腕組みをして、柊が立ち去った方を見ているココロ。
ココロ(でも、本当に王子様みたいだった――)
柊を思い出し、胸をときめかせるココロ。
○教室(中休み)
遥香「ココロ、大丈夫? ……じゃ、なさそうね」
一番後ろの席で机に突っ伏すココロを心配そうに見ている遥香。
ココロ「調子に乗って動きすぎた……」
遥香「やっぱり体育は無謀だって」
ココロ「激しい運動じゃなきゃ大丈夫って、言ってたのに」
遥香「なにが激しくて激しくない運動か、難しいところね」
ココロ「スポーツテストぐらい、大丈夫だと思ったのに」
遥香「大丈夫? 腹筋で内臓飛び出してない?」
ココロ「大丈夫ー……でも、痛み止め飲んどく」
カバンから薬を取り出して、ペットボトルの水で飲むココロ。
ココロ「眠くなるから、嫌なんだけどねー」
ペットボトルから口を離し、笑うココロ。
○教室(放課後・停電・雷雨)
雷の音で目を覚ますココロ。
机に突っ伏していた姿勢から上体を起こすと、暗い教室には誰もいない。
ココロ(寝ちゃった……?)
眠い目をこすり手を離すと、さっきまでいなかったはずの柊が目の前に立っている。
驚いて立ち上がるココロ。
勢いで、ココロが座っていた椅子が倒れる。
柊「柳木ココロ、だな」
無表情でココロの名前を確認する柊。
暗がりのなかで整いすぎた柊の顔は人外にも見える。
緊張して声の出ないココロは、頷くことしか出来ない。
柊「運命からは、逃れられないというわけか」
自嘲するように笑う柊の言葉に、意味がわからないココロ。
柊がココロに手を伸ばすが、ココロは怯えて後ずさる。
すぐに壁際に追い詰められ、壁ドンされるココロ。
雷に照らされる柊の目に射抜かれて、目を逸らせないでいるココロ。
柊の手がココロの頬を撫でて、顎に触れると自分の方に向かせる。
ゆっくりと二人の唇が近づき、触れる。
逃げる隙はあったはずなのに、ココロは金縛りにあったように動けなかった。
何度もココロの唇をついばむ柊。
我に返って顔を逸らしキスから逃れようとするが、柊はココロの顎をつかんで離さず口付けを繰り返す。
ココロ「あっ……!」
声が漏れてココロの目に涙が浮かぶ。
柊の手がウエストからスカートの中に侵入して、虫垂炎の傷口に爪を立てていた。
ココロの制服に血が滲んでいく。
痛みに悲鳴を上げそうになるココロの口を唇で塞ぐ柊。
ココロの足元に血が滴る。
柊がココロの唇から唇を離す。
顎は掴んだまま、自分を向かせて目を逸させない。
ココロはポロポロと涙を流している。
柊「これで、オマエも呪われた」
美しい顔で冷たく笑う柊。
○ 教室(放課後・明かりが消えており暗いが雷雨ではない)
さっきと同じ情景。
ふと、目を覚ますココロ。
机に突っ伏していた姿勢から上体を起こすと、暗い教室には誰もいない。
眠い目をこすり手を離すが、教室には柊も誰もいない。
ココロ(夢……?)
柊にキスされたシーンを思い出して赤くなり、首を振ってそのシーンを振り払うココロ。
ココロ(帰ろ……)
夢うつつにぼんやりしたまま、鞄を手に立ち上がるココロ。
ポタポタッと足元に血が滴り、ぎょっとして動きを止めるココロ。
見ると、制服の右下腹部にじんわりと血が滲んでいた。
○教室(放課後・停電・雷雨)
教室の後方、壁に背を向けて立つ柳木ココロ。
その目の前には、壁ドンの姿勢で望葉柊が立っている。
柊の顔は前髪で隠れており、表情が見えない。
雷が光った瞬間、柊の前髪の隙間から目が見える。
真っ直ぐにココロを見つめる、真剣な眼差し。
金縛りに合ったように顔を赤くして動けないココロの頬を柊の手が撫で、ココロの顎を上に向ける。
二人の唇が近づく。
(プロローグ終わり)
○体育館(入学式)
生徒がパイプ椅子に並んで座っている後ろ姿。
その中の一席から生徒が崩れ落ち、悲鳴が上がる。
壇上に上がる途中だった柊が足を止めて、騒ぎの中心を見ている。
倒れてお腹を抱えているのはココロだった。
騒ぎになり、救急車が学校に到着する。
○職員室(朝)
ココロ「いやー、すみません。入学早々お騒がせしました」
担任の机の前で苦笑いをしているココロ。
担任「もう大丈夫なのか?」
ココロ「破裂寸前だったとはいえ、ただの虫垂炎なんで。手術も無事に終わったんで、へっちゃらです」
心配する担任に対して、こぶしを握って元気アピールするココロ。
担任「まだ無理はするなよ」
ココロと話していた担任が、なにかに気がついたように顔を背ける。
担任「ああ、ちょうどいいところに」
片手を上げて、誰かを呼ぶ担任。
担任「望葉くん」
担任の視線の先には、書類を片手に教頭の机から離れようとしていた柊がいた。
無表情で冷たい目をしているが、整った顔立ちをしている柊に頬を染めるココロ。
柊「なんですか?」
担任「入学式で倒れた柳木ココロさん。今日、復帰してきたんだ。オリエンテーションとか出られてないから、いろいろ教えてあげてくれないか」
担任に紹介され、深々と柊に向かって頭を下げるココロ。
担任「生徒会長の望葉柊くんだ。頼りになるから」
担任がココロに柊を紹介するが、柊はココロをじっと見つめてなにも言わない。
担任「えーっと、まずは校内の案内からでも」
黙ったままの柊に困惑しながらも担任が言う。
柊「承知いたしました」
担任に頭を下げるとココロの方を見ずに歩き出す柊。
慌てて自分も担任に頭を下げて柊の後を追いかけるココロ。
○廊下
職員室から出てくる柊。
少し遅れてココロも出てくる。
二人の距離は空いている。
遥香「ココロー!」
廊下の奥からクラスメイトの長月遥香が駆けてきて、ココロに抱きつく。
遥香「心配したんだよ!」
ココロ「遥香! ごめんね、心配かけて」
親友の登場に嬉しそうに笑うココロ。
ココロ「いやー、入学式だからって痛いの我慢してちゃダメだね」
苦笑いするココロ。
柊「もう友達がいるんだな」
立ち止まってその様子を見ていた柊。
柊の姿に気がついた遥香はココロから離れて姿勢を正し、緊張した様子を見せる。
ココロ「中学が一緒だったんで……」
柊「なら、オリエンテーションの内容は彼女に聞け。校内案内も必要ないな」
二人から目を逸らし、手元の書類に目を向ける柊。
柊「悪いが、外部生の相手をするほど暇じゃないんだ」
冷たい物言いに少しムッとするココロ。
遥香は怯えた様子。
柊「なにあればオマエが生徒会室に来い。放課後はだいたいそこにいる。学園の品位を落とすようなことはするなよ」
そう言い残して立ち去る柊。
ココロ「なにアレ、感じ悪っ」
柊が立ち去った方を睨んでるココロ。
遥香「緊張した〜」
柊がいなくなり、ホッとした様子の遥香。
遥香「でもラッキー。王子をこんな間近でみちゃった」
目をキラキラさせている遥香。
ココロ「オオジ? 望葉先輩じゃないの?」
遥香「そう、望葉先輩! 望葉グループの御曹司! 由緒ある家柄であのルックス。正に王子様でしょう!」
キラキラした目で口調に熱がこもる遥香。
遥香「幼稚園舎からのエリート組で、入学式の代表挨拶でハートを射抜かれた外部生多数! 学内ファンクラブとか、マンガの世界だけだと思ってた」
ココロ「あるの!?」
驚いて遥香の方を見るココロ。
遥香「あるの! 活動はひっそりとしたものだけどね……みんな、呪われるのが怖いから」
脅かすようにニヤリと笑う遥香。
ココロ「呪い……?」
遥香「王子の不興を買うと、呪われるのよ。王子にストーカーした女生徒とか、去年の生徒会選のライバルとか……みんな、不慮の事故とか病気とかで休学したり退学したり……」
手を垂らした幽霊のポーズで話す遥香。
遥香「まあ、そんな噂は抜きにしても冷徹生徒会長だし、見れたらラッキーだけど、あんまりお近づきにはなりたくないタイプかなー」
ココロ「確かに」
頷きながら腕組みをして、柊が立ち去った方を見ているココロ。
ココロ(でも、本当に王子様みたいだった――)
柊を思い出し、胸をときめかせるココロ。
○教室(中休み)
遥香「ココロ、大丈夫? ……じゃ、なさそうね」
一番後ろの席で机に突っ伏すココロを心配そうに見ている遥香。
ココロ「調子に乗って動きすぎた……」
遥香「やっぱり体育は無謀だって」
ココロ「激しい運動じゃなきゃ大丈夫って、言ってたのに」
遥香「なにが激しくて激しくない運動か、難しいところね」
ココロ「スポーツテストぐらい、大丈夫だと思ったのに」
遥香「大丈夫? 腹筋で内臓飛び出してない?」
ココロ「大丈夫ー……でも、痛み止め飲んどく」
カバンから薬を取り出して、ペットボトルの水で飲むココロ。
ココロ「眠くなるから、嫌なんだけどねー」
ペットボトルから口を離し、笑うココロ。
○教室(放課後・停電・雷雨)
雷の音で目を覚ますココロ。
机に突っ伏していた姿勢から上体を起こすと、暗い教室には誰もいない。
ココロ(寝ちゃった……?)
眠い目をこすり手を離すと、さっきまでいなかったはずの柊が目の前に立っている。
驚いて立ち上がるココロ。
勢いで、ココロが座っていた椅子が倒れる。
柊「柳木ココロ、だな」
無表情でココロの名前を確認する柊。
暗がりのなかで整いすぎた柊の顔は人外にも見える。
緊張して声の出ないココロは、頷くことしか出来ない。
柊「運命からは、逃れられないというわけか」
自嘲するように笑う柊の言葉に、意味がわからないココロ。
柊がココロに手を伸ばすが、ココロは怯えて後ずさる。
すぐに壁際に追い詰められ、壁ドンされるココロ。
雷に照らされる柊の目に射抜かれて、目を逸らせないでいるココロ。
柊の手がココロの頬を撫でて、顎に触れると自分の方に向かせる。
ゆっくりと二人の唇が近づき、触れる。
逃げる隙はあったはずなのに、ココロは金縛りにあったように動けなかった。
何度もココロの唇をついばむ柊。
我に返って顔を逸らしキスから逃れようとするが、柊はココロの顎をつかんで離さず口付けを繰り返す。
ココロ「あっ……!」
声が漏れてココロの目に涙が浮かぶ。
柊の手がウエストからスカートの中に侵入して、虫垂炎の傷口に爪を立てていた。
ココロの制服に血が滲んでいく。
痛みに悲鳴を上げそうになるココロの口を唇で塞ぐ柊。
ココロの足元に血が滴る。
柊がココロの唇から唇を離す。
顎は掴んだまま、自分を向かせて目を逸させない。
ココロはポロポロと涙を流している。
柊「これで、オマエも呪われた」
美しい顔で冷たく笑う柊。
○ 教室(放課後・明かりが消えており暗いが雷雨ではない)
さっきと同じ情景。
ふと、目を覚ますココロ。
机に突っ伏していた姿勢から上体を起こすと、暗い教室には誰もいない。
眠い目をこすり手を離すが、教室には柊も誰もいない。
ココロ(夢……?)
柊にキスされたシーンを思い出して赤くなり、首を振ってそのシーンを振り払うココロ。
ココロ(帰ろ……)
夢うつつにぼんやりしたまま、鞄を手に立ち上がるココロ。
ポタポタッと足元に血が滴り、ぎょっとして動きを止めるココロ。
見ると、制服の右下腹部にじんわりと血が滲んでいた。