優しい犯罪
「名前は…。分からない、です」
「うん。分かった。苗字は?」
「……」
答えられないのが悪いことだとは思わなかったけど、何で答えられないのか違和感はあった。
おじさんも、私が名前を答えられないのを知ってるみたいに落ち着いているし、何か事情があるみたい。
「あんたの家の苗字は平岡だよ。名前までは俺も分からないけど」
「ひらおか…」
「親から名前は聞いたことある?」
「ないです。普通の会話はしたことないから…。でも妹を名前で呼んでるのは聞いたことあります」
「妹?昨日テレビに映ってた子?」
「そうです。妹は〝さき〟って呼ばれてる」