優しい犯罪




「言いたくないけど、仕方ない…。優衣ちゃん、そこに居るからや。前田くんに会いたいみたいやけど、今は会わせてあげられへんから」


「優衣!?何で居るの?俺のとこ来たって、みっともない姿見せるだけなのに…」


「前田くんの話を聞いてからになるけど、ほぼ確定で刑務所に入ることになるやろうから。優衣ちゃんにそう話したら、会いたいって。あの窓の向こうに優衣ちゃん居るで。今のうちに言いたいこと、ぶちまけとき」




警察官の言葉に、下がっていた頭を勢いよくあげて、こっちを向いたおじさん。


目を大きく開けてびっくりしているけど、目がキョロキョロと動いて、私と目が合わない。



そうか。私からはおじさんが見えるけど、おじさんからは何も見えてないんだ。




< 270 / 296 >

この作品をシェア

pagetop