【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
 だって、普段の彼女は。感情的になることはあれど、ここまで悪意をぶつけてくることはなかった。

 ……今まで幾度となく喧嘩を売られたけれど、ここまで露骨な言葉は初めてだった。

「本当に嫌だわ。……私は周囲から笑い者にされているのよ?」
「そ、そんなことは」

 コルネリアさまは周囲から認められている。……笑い者は、私のほうだ。

「長年側にいながら、殿下に愛を与えられない、惨めな女。……それが、私よ」

 彼女が私のことを強く睨みつける。その目に宿った憎悪に、背筋がぶるりと震えた。

 自然と足を後ろに引いて、彼女から逃れようとする。……でも、それより早く。彼女が、私の身体を突き飛ばした。

「ひゃっ――!」

 不幸なことに、後ろは階段だった。

 宙を舞う身体。どんどん遠のいていく、コルネリアさまのお姿。

 彼女の目が、驚いたように揺れているのは、どうして?

(――コルネリアさま、本当はこんなこと、したくなかったのでは?)

 頭の中に宿ったその感情を、確かめるすべはない。

 私は、床に強く身体を背中を打ち付けた。
< 101 / 175 >

この作品をシェア

pagetop