【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
 それからのことは、よく覚えていない。 

 どうやってお部屋に戻ったのか。ゲオルグさまといつ別れたのか。

 思い出せない中、ぼうっとしつつソファーに横たわる。

(きっと、彼女は報告したのでしょうね……)

 あの様子だと、間違いなく報告していると思う。

 胸がずきんと痛む。

 あの状況では、私がいくら「違う」と言っても、信じてもらえなかっただろう。

 だったら、少し間をおいてから、言ったほうがいいかも。

 そう思って、私は一度深呼吸をして起き上がる。それとほぼ同時に、お部屋の扉がノックされた。

「テレジアさま。王妃さまがお呼びでございます」

 私の返事も聞かずに、侍女が扉を開けてそう伝えてくる。

 彼女は私が頷いたのを見て、ぱたりと扉を閉めた。……彼女の顔も、知っている。

 王妃殿下付きの侍女だったはず。

(やっぱり、王妃殿下のお耳に入ってしまったのね……)

 でも、王妃殿下ならば私の無実を信じてくださるのではないか。

 小さな小さな希望が胸の中に芽生えて、成長していく。……だって、あのお人はいろいろと親切だったもの。

(……けど)

 だけど、それと同じくらい、私を不安にさせるような言動をされていたような気がする。

 コルネリアさまのこととか……。

「……いいえ、気のせいよ。王妃殿下を疑うなんて、とんでもないわ」

 必死に自分にそう言い聞かせて、軽く頬を叩いた。

 そうだ。まずは、王妃殿下に事の顛末を説明しなければ。

 私とゲオルグさまは無関係だ。関係を持ったわけがない。むしろ、私は彼を嫌悪していた。

 真実を伝えれば、彼女は無下にはしない。そう、思っていたのに。それは、儚い願いだった。


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