【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
「あと、今更だけど寒くはないか?」
「……いえ、大丈夫です」

 確かに少し日が落ちてきて、肌寒くなってきた。だけど、まだ大丈夫。

 そういう意味を込めてゆるゆると首を横に振れば、ラインヴァルト殿下は「だったら、よかった」とおっしゃる。

「けどまぁ、あんまりここに長居することは出来そうにないな」
「……そう、ですね」

 自分の声は驚くほどに、沈んでいる。だって、そうじゃないか。

 ここに長居出来ないということは、お屋敷に帰らなくちゃならない。……つまり、お父さまやお母さまとお会いしなくちゃならない。

(もう、婚約破棄の件は伝わっているでしょうね。……そうなれば、私は最悪お屋敷にも入れてもらえないわ……)

 寒空の下で、一晩を明かすことが出来るのか。

 そこまで想像して、ぶるりと背筋を震わせる。それに、野宿なんてしたことがない。お金も持っていないので、宿を取ることも出来ないし……。

(というか、そもそも宿ってどうやって取るの……?)

 その時点から、問題だった。

「……テレジア嬢?」
「え……あ、はい」

 ラインヴァルト殿下にまた顔を覗き込まれて、ハッとする。彼はどうやら私のことをずっと呼んでくださっていたらしく、そのお綺麗なお顔に心配の色を宿している。……あぁ、悪いことをしてしまった。

「なに、ぼーっとしてるんだ。なにか、困っていることでもあるのか?」

 ……そう問いかけられても、素直に言えるわけがない。

 王太子殿下であられる彼に、私の事情を話すこともはばかられた。

(お屋敷に帰りたくないなんて、言えるわけがない。……ここは、誤魔化さなくては)

 そう思って、私はぎこちない笑みを浮かべる。

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