【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
 地を這うような低い声。……王妃殿下を見つめるラインヴァルトさまの目は、冷たい。いや、冷たいなんてものじゃない。

 ただただ、恐ろしい目だった。

「なんなら、あなたはこの国の民たちみなを騙してきたことにもなる」
「……な、にを」
「以前、国の金を着服して投獄された大臣がいたな。……あとから調べた。あれは、あなたの身代わりだろう?」

 ……国のお金を着服して投獄された大臣。そういう人がいたことくらいは、私でも知っている。

 だって、大々的にスキャンダルになっていたもの。

「なんでも、彼は重篤な病を患った子供がいたそうだな。……子供の治療費を出す代わりに、身代わりとして罰を受けろ。そうとでも命じたか?」
「……ち、がう」
「そして、その大臣は牢で毒殺された。……口封じだな」

 どんどん空気が冷え切っていくような感覚だった。侍女や女官たちは、王妃殿下に縋るような目を向けている。

 ……その目に込められているのは、『嘘だと否定してほしい』そういう感情だと、思う。

「多分ほかにもたくさんの罪があるだろう。……全部調べ上げ、陛下に報告する。あぁ、証拠はある程度は揃えてある。言い逃れは、出来ないからな」

 そのお言葉が、トドメになってしまったのだろうか。王妃殿下は、その場に崩れ落ちていた。

 床をバンバンとたたく姿は、癇癪を起こす子供にしか見えない。

「……親不孝だわ」

 小さく彼女がそう呟いた。
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