【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
「ラインヴァルトなんて、産まなきゃよかった。……次期王太子に選ばれるために、高水準の教育なんて施さなきゃよかった」
「……そうか」
「全部、全部あんたが悪いのよ! あんたが、わたくしを不幸にしたんだわ!」

 ラインヴァルトさまに、その言葉は届いていないのだろう。……彼は何処までも冷たい目で王妃殿下を見下ろす。

 ……でも、私はそう割り切れなかった。

「テレジア?」

 私が一歩足を踏み出した。気が付いたら、無意識のうちに言葉を紡いでいた。

「……してください」

 小さな小さな声。……王妃殿下が、お顔を上げる。その目を見て、今度は力いっぱい言葉を叫ぶ。

「撤回してください! ラインヴァルトさまは、悪くない……!」

 ラインヴァルトさまが驚いたような視線を向けてこられている。わかる。気が付いている。

 ただ、言葉が止まらなかった。

「ラインヴァルトさまは、とても素晴らしいお人です。次期国王として、立派なお人です。……母親だからって、言っていいことと悪いことがあるんです……!」

 私の母は、私を愛してくれなかった。だから、今の言葉のひどさはとてもよく分かっているつもりだ。

「ラインヴァルトさまの存在を、否定しないでください……!」

 それが、私の精一杯の言葉。彼女が垂れてきた前髪の奥から、私を見つめている。

 ぽかんと、している。

「……私は、あなたさまに優しくしていただいて、嬉しかった。……本当の母親みたいだって、思っていた。たとえ、陥れるまでだったとしても、優しくしてくださって、感謝しています」
「……て、れ――」
「……だから、その点についてはありがとうございました」

 かといって、許せるか許せないか。それは別問題。

 そういう意味を込めて私は扉のほうに身体を向けて、彼女に背を向けた。

 そして――また、足を踏み出した。
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