【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
 ……とくとくと心臓が早足になる。

 あぁ、そうだ。だって、私。彼と対面したのは本当に久々なんだもの。

「ラインヴァルト、さま」
「何処に行くつもりだ?」

 彼の隣を通り抜けようとして、声をかけられた。

 びくんと肩を跳ねさせて、足を止める。彼が私のほうに身体を向けられた。

「……その、行きたい場所が、あって」

 別に行きたい場所なんてない。これはただ、ここから逃れるための言葉だ。

「そうか」

 私の言葉に、ラインヴァルトさまがそれだけを返す。かと思えば、彼が私の行く手を阻むように移動された。

「俺の勘が正しければ、テレジアの行きたいところとは――そうだな。修道院とか、そういうところだろう?」
「っ」

 見透かされている。

 心臓がドキッと音を鳴らして、私は誤魔化すように視線を逸らした。

 これじゃあ、図星ですって言っているみたいなのに。

「なんだ? 俺と一緒にいてくれるんじゃなかったのか?」

 彼がそう声を発する。その声の奥には、縋るような感情が宿っているように感じられる。

 ……ぎゅっと目を瞑って、顔を背けた。

「……私は、ラインヴァルトさまに相応しくない……」

 絞り出すようにそう言葉を紡いだ。彼に相応しくなろうと思っていた。が、今回のことで痛感した。

 ――私がどれだけ相応しくなろうとしても、文句を言う人はいるのだと。
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