【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
 あれだけ前向きになれなかった私なのに、今ではすっかり前を向くことが出来ている。

 ……それもこれも、全部ラインヴァルトさまのおかげだ。

 でも、ふとあることを思い出す。……そういえば、聞こうと思って聞けていないことがある、と。

 そう思っていれば、後ろから「テレジア」と名前を呼ばれた。ゆっくりとそちらに視線を向ければ、そこにはほかでもないラインヴァルトさまがいらっしゃる。

 彼は私から見て対面の席に腰を下ろすと、近くにいたミーナにお茶を要求されていた。

「なんていうか、テレジアはここが好きだな」

 テーブルに頬杖を突かれた彼が、そうぼやかれる。だから、私は頷いた。

「はい。とても、穏やかな気持ちになれますから」

 そう言って、彼の手を見る。そこには、出逢ったときからずっとルビーの指輪がある。

「……なに?」

 私の視線を感じてか、彼がきょとんとされて問いかけてこられる。

 私は曖昧に笑った。

「いえ、ラインヴァルトさまはルビーがお好きだという、噂でしたから……」

 煌びやかな宝石を好まない彼が唯一好きな宝石。それが、ルビーだということだった。

「あぁ、そうだな。俺は宝石は好まないけど、これだけは好きだよ」

 彼が小さくそう呟かれて、ルビーの指輪を抜かれる。見るからに高価なその指輪。彼は私の手の上にそれを置いてくださった。
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