【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
 だけど、私にとっては周囲の野次馬たちのように楽観的な問題じゃない。

 何故ならば、私は婚約破棄を突きつけられた当事者なのだ。……このままだと、どうなるのか。それくらい、想像力の乏しい私にだってわかる。

(……お父さまやお母さまは、とてもお怒りになるでしょうね……)

 あのお二人は、ずっと私に言い聞かせていた。

 ――お前の価値は、ゲオルグさまの婚約者。すなわち『次期公爵夫人』ということだけだ。

 それが、あのお二人の口癖だった。

 すなわち、その立場と肩書きがなくなった私に対する待遇なんて、誰にだってわかる。

(……どうしよう、どうしよう)

 お屋敷に帰ったところで、どういう扱いを受けるかは大体想像がつく。

 よくて勘当。悪かったら……何処かに売られるとか、そういうことだろうか。

(売られる……とすれば、悪い評判の絶えない貴族とか、老人の後妻とか。……あとは、娼館とか)

 どう足掻いてもろくなことにはなりそうにない。……ならば、お屋敷に戻らずに逃亡する……ということも考えて、やめた。

 だって、私には働く術がない。特別な技術を持ってもいなければ、庶民の常識にも疎い。こんな私を雇ってくれる人なんて、絶対にいない。

 わなわなと唇が震えてしまう。徐々に手や身体も震え出して、恐ろしい未来に目をぎゅっと瞑った。

(ゲオルグさまを追いかける? 婚約破棄を撤回してって、申し出に行く?)

 そんなことをしたところで、彼が考えを改めてくれるわけがない。彼は私のことを見下している。あの態度が、その証拠。

 あと、彼は心に決めた女性が云々とおっしゃっていた。……私のことなんて、もうどうなろうが知らないというような態度。

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