【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
(……少し、時間を潰そう)

 その一心で、私は踵を返した。が、すぐに「テレジア!」と名前を呼ばれる。

 ……ほかでもないラインヴァルトさまのお声だった。

 頭がすぐに理解して、逃げようと足が動いた……の、だけれど。

「テレジア、逃げるな」

 彼のほうが、脚が長くて、早い。歩幅も大きい。つまり、私が逃げることは出来なくて。

 ……私は、ラインヴァルトさまにあっさりと捕まった。

「……放して、ください」

 震える声で、抗議をする。

 彼ははっきりと「嫌だ」と告げる。

 ……嫌なのは、こっちだ。

「テレジア。……なにか、あったんだろ? 俺、鈍いし女性の気持ちなんて、わからない。……だから、教えてくれ」

 彼が私の頬を優しく指で撫でて、そう懇願してくる。

 その指の感触に、私の心がぐっと締め付けられて。挙句、もう我慢も限界だった。

「テレジア!」

 はらはらと、涙が頬を伝う。ぽたり、ぽたりと床に落ちる水滴。

 ラインヴァルトさまが、慌てられている。止めなきゃ、涙を、止めなきゃ――。

「ラインヴァルトさまの、所為です……!」

 開いた口から、漏れる悪態。ラインヴァルトさまが、私を凝視されている。

「もう、これ以上私の気持ちを弄ばないでください……!」

 これ以上、コルネリアさまと仲睦まじい姿を見せつけられたら、私は、私は――。

(本当に、おかしくなってしまう。心まで、醜くなってしまう……!)

 それだけは、いとも容易く想像できた。
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