バー・アンバー 第二巻

道玄坂地蔵尊

渋谷までは30分ほどで着き、渋谷スクランブル交差点から道玄坂上交番前の交差点に向かって歩いて行く。京王線を使って神泉駅まで行けばいいのだが事前に調べた目当てのスポットがあって敢てこうしたのだ。道玄坂上交番前の交差点を右に曲がり一つ目の道を左折、50メートルほど行くとまた交差点があって、そこを渡った左角に竹の柵で覆われた料亭三長がある。その竹の柵を窪むようにしてお地蔵様が一体祭られているのだ。道玄坂地蔵尊と云いこの前で✕✕✕✕✕✕✕さんが夜な夜な客引きをしていたそうだ。センター109の地下トイレで着替えをしてから恐らくここまで歩いて来たのだろう。前の道は幅2、3メートルほどの一通であり、午後8時の今の時間でさえ余り人通りはない。神泉駅前の例のアパートや此処をなぜ売春場所に選んだのか定かではないが、事件以来ヤスラーと呼ばれる女性たちがよく拝みに来るのだそうな。それほどに女性たちにとってはインパクトの強い事件だったのだろう(俺もそうだが)。ところでインパクトが強いと云えばこの事件以来、売春街として名の知れていたここ円山町界隈でつとに売春婦の姿が消えたそうである。警察・町内会の意向やヤクザの慮り等のゆえだろうが、しかし反面トーヨコ広場始め都内各地での少女売春は後を絶たないのだとか。しかしこれはもう、まったく!…でしかない。この闇を、人間界の闇を、俺はこれから✕✕✕✕✕✕✕さんとともに真摯に見つめて行かねばならないのだ…。さてその地蔵尊の前に立って暫し往時の✕✕さんに思いを馳せる。彼女はいったいどんな思いで此処に一人で立っていたのだろうか…感無量である。美貌でグラマラスな邵廼瑩と違って往時の✕✕さんは殆ど骨と皮の姿だったと云う。
< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

人生詩集・番外編

総文字数/8,187

詩・短歌・俳句・川柳17ページ

表紙を見る
わが心なぐさめかねつ

総文字数/20,030

歴史・時代25ページ

表紙を見る
喜劇・魔切の渡し

総文字数/18,148

コメディ26ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop