イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない
「あっ!」
彼がわたしを見て声をあげたけど、わたしは慌てて視線をそらす。
「ちょっと、ちょっと。そこのキミ! どこかで見た顔だと思えば、失恋ちゃんじゃーん!」
うわーっ。そんな大きな声で『失恋ちゃん』とか言わないで。ていうか、わたしのほうに来ないで……!
「久しぶりだねぇ。会えて嬉しいよー」
わたしの願いも虚しく、失礼男がニコニコ顔でわたしの席までやってきた。
「どっ、どちら様でしょうか?」
彼と関わりたくないわたしは、知らないフリをする。
「どちら様って。キミの失恋現場を目撃して、落ち込むキミを優しく慰めてあげた男のことを忘れたの?」
優しく慰めてあげたって! 実際は笑っていたくせに。よくもそんな口から出まかせを……!
「「え、失恋!?」」
失礼男の言葉を聞いた杏奈と真織の声が、見事に重なる。
「ねえ、依茉。失恋ってなに!?」
「依茉ちゃん、もしかして小林くんに告白したの!?」
真織と杏奈が、矢継ぎ早にわたしに聞いてくる。