イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない
それから数日後。
「慧くん、寺内さん。ありがとうございました」
学校が終わり、この日もわたしは慧くんの実家のリムジンで自宅まで送ってもらった。
「依茉、見送りは良いから。雨が降る前に、早く家に入れよな?」
慧くんに言われて視線を上にやると、空は分厚い灰色の雲に覆われている。
「ありがとう。それじゃあ慧くん、また明日」
「ああ。また明日な」
チュッ。
別れ際。慧くんが名残惜しそうに、わたしの唇にそっと触れるだけのキスをした。
「じゃあな、依茉」
「うん。じゃあね」
わたしは慧くんに、ヒラヒラと手を振る。
明日また学校で会えると分かっていても、慧くんとの別れ際はいつも寂しい。
だから、慧くんに見送りはいらないと言われてもやっぱり見送りたくて。
慧くんの乗ったリムジンが見えなくなるまで、わたしは家の前で繰り返し手を振った。
しばらくして車が見えなくなり、家に入ろうとわたしが玄関へと向かったそのとき。
「うちの子と、随分と仲良くやってるのね」
背後から突然、耳慣れない声がして振り返ると、慧くんのお母さんが腕を組んで立っていた。