イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない
「昔は聞き分けのいい子だった息子が、最近言うことを聞かなくなったのは……もしかして、あなたのせいなのかしら? いいわ。分かりました」
一堂さんが、組んでいた長い足をおろす。
「それなら、私が依茉さんに話すことはもう何もないわ。佐々木」
「はい」
一堂さんが名前を呼ぶと、ずっと静かに運転席に座っていた男性が外に出て、後部座席のドアを開ける。
これは……きっと、もう用済みってことだよね。
そう思ったわたしは、おとなしく車外に出た。
「今日は、お時間を頂いてしまって悪かったわね。さようなら、依茉さん。今後もう二度と、私の前に現れないでちょうだい」
わたしの顔も見ずに早口でそう言うと、すぐにドアがバタンと閉められ、一堂さんを乗せた車は走り去っていた。
慧くんのお母さんの姿は、もうどこにもないというのに。
さっきからずっと、手足の震えがおさまらない。
灰色の空からは、ポツポツと雨が降ってくる。
このままじゃ濡れるから、早く家に入らなきゃって思うのに。
わたしは、そこから動くことができなくて。
冷たい雨に打たれながら、わたしはしばらくの間、呆然とその場に立ち尽くしていた。