α様は毒甘な恋がしたい

 聞きたいことすら聞けず。

 彼と視線を絡めることもできなくて。

 ドキドキとゾワゾワで心臓が乱れている間に、エレベーターが3階に到着した。



 ドアが開く直前、サッと肌から消えた甘いぬくもり。

 手首の締めつけがなくなった瞬間に襲われたのは、恋しさともの悲しさ。


 ――ゴツゴツした彼の指の感触を、もう一度味わい!


 私の五感は、ほんとワガママで困りもの。

 恥ずかしいほどの欲望を、ドクドクと募らせてしまうんだ。



 大好きな人のぬくもりが消えてほしくない私は、まだ甘い熱が残っている手首を反対の手で包みこんだ。

 悪あがきだと、わかってはいるけれど……

 彼のアルファ熱をまとい続けたい願望は、私が戒璃くんの(つがい)だからなのかもしれない。

 

 瞳を灰色に陰らす私の目の前で、エレベーターのドアがゆっくりと開いていく。
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