α様は毒甘な恋がしたい

「ちゃんと自分の気持ちを、八神戒璃に伝えられましたね。えらかったです、美心」


 風弥さんは、マリア様みたいなおっとりスマイルで私の頭を撫でてくる。



「帰ったら、屋敷でたっぷり可愛がってやる」

「思う存分、私たちに甘えつくしてくださいね」



 贅沢すぎる優しさを向けられているのに、誰かに甘えたいなんて思えない。

 今すぐ布団にもぐって、失恋の痛みを涙で洗い流したい。



 コツコツコツ。

 前から近づいてきた足音。

 消えたと同時、うつむく私の視界に映りこんだ戒璃くんの靴。


「これ、生徒会入会用紙だよ」


 温かい陽だまり声に戸惑ったのは、私の耳の鼓膜で。

 戒璃くんの表情を確認したくて、慌てて視線を上げてみた。



 あっ、私に優しく微笑んでくれている。

 転入生を歓迎する生徒会長みたいな、お兄さん笑顔で。

 ファンに愛を送るトップミュージシャンのような、慈悲深い表情で。
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