α様は毒甘な恋がしたい
振り返らずともわかってしまった、声の主。
恐怖という闇が生まれ、急激に俺の心臓をむしばんでいく。
ねちょっと噴き出した変な汗。
首からにじみ出るが止められない。
見られてしまったというのか、この男に。
大好きな人と、二人だけでいるところを。
うかつだった、本当に。
俺の恋心を隠し通さなければいけない、危険極まりない相手だったのに……
うつむいたままベンチに座っている俺から、興味を他に映したイケオジ。
歩みを進め、立ち止まってニヤリ。
「初めまして、お嬢さん。戒璃の叔父のルキだ」
鋭くとがった全部の歯を不気味に光らせながら、美心を覗き込むように微笑んだ。
紅色のスーツに、真っ赤な短髪。
眼光鋭く、明らかにガラの悪い容姿をしているルキ。
美心の目には、ヤクザの類いとして映っているんだろう。
「あっ、ここっ、こんにちは。八神先輩の…ご親戚なんですね……」
美心は器用に微笑みながらも、警戒するかのように目を泳がせている。