α様は毒甘な恋がしたい


 僕は店主に、逆さづりにされたまま。

 大切な想い出を、ひとり紐解く。

 木々が煌めく里でハルヒと過ごした日々は、全てが僕の宝物だ。


 そんなに泣いたら体中の水分がなくなるんじゃないかな?

 僕は結局、ハルヒの心配ばかりしていたな。

 ハルヒは僕に会うなり、オメガ虐待が辛いって涙をこぼしてばかりいたから。


 僕はね、ハルヒに笑って欲しかったんだよ。

 
 今もそう。

 干物みたいに干からびないか心配になるほど、僕を見て大粒の涙を流しているけれど……


 ニコっと笑って欲しいな。

 グリグリの瞳が見えなくなるくらい、満開の笑顔を咲かせて欲しいな。

 今この修羅場が、ハルヒの笑顔を見る最後のチャンスになってしまいそうだから。


 そういえば最後に里で会ったときに、ハルヒに言われたんだっけ。

 『いっつも孝くんは、バイバイの時にそっけないよね』って。


 僕の中に生まれた時から居座ってる、厄介な天邪鬼。

 お願いします。

 今だけは引っこんでいてください。


 これが僕たちの別れになると思うから。

 ハルヒの目を見て伝えたいんだ。

 ずっと心に秘めていた、僕の熱い想いを。



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