α様は毒甘な恋がしたい


 オロオロしながら、会場中を見回す私。


「オメガ姫が目覚めたようですね」


 スピーカーから、男性のおっとり声が流れてきて。


「姫、画面の向こうの皆様に、笑顔をプレゼントしてあげて。手を振ってあげたら喜びますよ」


 飛び回っているドローンカメラが一台、私の顔面の真ん前でピタリ。

 ホバリングをしながら、レンズを私に向けている。


 カメラに映るのはイヤで

 この状況が不気味すぎて

「ひゃっ!」

 両手で顔面を隠しながらうつむいたのに


「オオー!」

 テレビ画面の男性たちから、拍手喝采。


「恥ずかしがっているんだね」

「人前に慣れていないのかな?」

「ウブで純粋な感じが、可愛いじゃないか」


 デレッと鼻の下を伸ばして喜んでいるのが、生理的に無理って思っちゃう。


 気持ち悪いよ、画面に映る男性たちのねっとりした視線が。


 夢であって欲しい。

 そう全力で願っちゃうけれど……

 残念ながら夢じゃない。

 左手の薬指を噛んだら痛みが走ってしまった。

 これは現実で間違いない。
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