α様は毒甘な恋がしたい
「孝里、本番前に言っておいたでしょ。今日の現場はステージ袖が狭いから、テントは置けないって」
「いのりん怒るのやめて。無駄な段ボールが置いてあったせいじゃんか。あれをどかせば、絶対に置けたし」
「休憩中にテントにもぐるクセ、そろそろなんとかしたら?」
「戒ちゃんならいいって言うもん。僕の代わりにスタッフさんに頭下げて、テントを置く許可をとってくれてたもん」
「戒璃がいない現場に慣れてちょうだい。もう半年もたっているんだから」
「約束したよね? 戒ちゃんがいつ戻ってきてもいいように、89盗の人気を落とさないよう頑張るって」
「……そうね」
「戒ちゃんがいないままバンドを続けるのは無理ってなったからさ、いのりんと二人でアイドル活動をしてるのにさ。いのりんは文句ばっかでさ」
「歌もダンスも孝里が頑張っているのはわかってるわ。だけど仕事なの。人の輪が大事なの。自己中ではやっていけないのよ」
大人気ギターボーカルがいなくなったのは、89盗にとって大ダメージだったみたい。
でも偉いなって尊敬しちゃう。
二人ともダンス経験なんてない。
それなのに一から、必死にダンスの基礎を学んでいるなんて。