腹黒弁護士に囚われて、迫られて。ー輝かしいシンボルタワーで寵愛されていますー
見ず知らずの人に、優しくしてもらってはいけない一心から顔を上げる。
車の窓から顔を覗かせた男性は、ダークブラウンの落ち着いた髪色で、真っ黒のサングラスを掛けており、雰囲気から察するに歳は私とあまり変わらないように感じた。
「大丈夫です。ご迷惑お掛けしました」
失礼がないよう頭を下げると、男性は「あれ? 有栖川だ」と、私の名字を呼んだ。
男性は私のことを知っているらしい。
けれど、私は目の前にいる男性を、いつどこで見たのか記憶にない。
何も発することができないでいる私に、
「とりあえず、後ろ、車乗れ。ほら、早く!」
車に乗るように急かされ、混乱して素直に車の後部座席のドアを開ける。
「私、びしょ濡れなんですが……」
「これ使って」
男性に『はい』と渡された青いバスタオルからは、とっても良い柔軟剤の香りがした。その匂いが私の胸の痛みを和らげてくれたような気がする。