腹黒弁護士に囚われて、迫られて。ー輝かしいシンボルタワーで寵愛されていますー
ミラー越しに目と目が合う。
「えっ!? ドン!?」
「暖だ! おまえ、いつまでその呼び名貫き通してんだよ。むしろその妙なあだ名、有栖川しか呼んでねぇから」
サングラスの男性の正体は、高校の時のクラスメイト、東郷暖だった。
一番最初の席以外、席替えはくじ引きで行われていた。その度に暖と私は隣の席で、クラス中から夫婦とからかわれていた。
口喧嘩ばかりしていて、三年間犬猿の仲だった。
クラスの皆には優しい東郷だけれど、私には意地悪で小言が多いうるさい男だっただけに、暖という名をイジって『ドン』と呼ぶようになった。
思い返すと確かに、暖のことをドンと呼ぶ人は私しかいなかったように思う。
「ごめん、ドンがそんなにイヤだったなんて。……じゃあ暖で。私、暖とセックス無理だから」
「アホか! 誰が結婚間近の女なんて抱くかよ。こっちから願い下げだっての」
一瞬にして、懐かしく言い争う、あの時の時間が始まった感覚になった。
苦しかったはずの心が癒えていくのが分かる。
「…………私、暖みたいに、彼氏と口喧嘩したことないかも」
惚気で言ったわけではない。
惚気たいわけでもない。
けれど『惚気』と勘違いさせてしまったようで、
「ふーん、ずいぶんと仲がよろしいことで」
逆に苛立たせてしまった。