腹黒弁護士に囚われて、迫られて。ー輝かしいシンボルタワーで寵愛されていますー


「おい、真島。和歌の件は――」

「もういいです! 有給余ってると思うんで、それ今月末まで使って、全部消費させてください! 今まで世話になりました!」


 デスクを勢いよく叩いて、真島くんは鞄を手に持ち、事務所から出て行ってしまった。


「暖……どうしよう。真島くん出て行っちゃった……」

「まあ、法的には可能だよ。民法627条1項に、辞職の意思表示をした2週間後に退職の効力が生じることになってるから」

「……え?」

「有給休暇は法律上、労働関係の存続を前提としたものであるっていう取り決めがあるから。まだ在職している現段階で有給休暇を申請することは、労働者としての当然の権利。残りの全部の日数を有給休暇に指定することも、法的には問題がない」


 黙々と話す暖。


「いや、法の話をしてるんじゃなくて……」


 真島くんがいなくなったのにイスから立ち上がろうとしないため、「私、引き留めてくる!」暖にそう吐き捨てて、急いで事務所から出た。


 真島くんが思い詰めてしまったのは私のせいだ。


 謝りたい。


 ――まだ近くにいるはずだ。


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