つれない男女のウラの顔
「いやーほんと、推しの顔が強すぎて泣ける」
うん、分かる。本当に彼の顔は強い。思わず見惚れてしまう。
「そのMVの衣装がタキシードでね、それがまた似合ってて」
成瀬さんのタキシード姿…100%似合うやつじゃん。成瀬さんと結婚したら、タキシード姿の彼が見られるってこと?その隣で私はドレスを着るの?
あ、無理。想像でニヤける。なんなら感動して泣いてる母親の姿も、幸せそうに笑う父親の顔も想像出来ちゃう。
父親とバージンロードを歩いて、その先には優しく笑う成瀬さんが待っていて………って、私ったらなに妄想してんの!
別に成瀬さんとお付き合いしているわけでもないのに、なんて失礼な妄想をしてしまったのだろう。ほんと烏滸がましいわ。恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい。
一気に顔が熱くなって、食事中にも関わらず慌ててマスクをつけた。そんな私を見て、マイコが「え、なにどうしたの」とキョトンとしている。
「京香ちゃん、なんで赤面してんの」
「………風邪かな」
妄想とはいえ、どうして成瀬さんと結婚を…?意味が分からない。本当に風邪を引いて頭がおかしくなったのかも。
そもそも私は成瀬さんと釣り合わない。タキシード姿の彼の隣になんて並べない。やっぱり一ノ瀬さんくらい凛として、まっすぐで、綺麗な人でない…と……。
再び一ノ瀬さんのことを思い出して肩を落とした。赤面したかと思えば今度は落ち込む私に「まるで百面相ね」とマイコが呟く。
「やっぱり悩みがあるんでしょ」
「そういうわけじゃないけど…」
悩みなのかと聞かれたらよく分からない。でも、彼女のことを思い出すと気持ちが落ち込む。
昨日、一ノ瀬さんは去り際に「また会いましょう」と言っていた。ということは、また会いに来るのだろうか。それとも既に連絡してたりして。
となると、ふたりはいずれ付き合うのかな。成瀬さんはそんな気がなさそうだったけど、人の気持ちなんていつ変わるか分からないのだから。