つれない男女のウラの顔

「…え?」


──ぎゅうんっ!

突然胸が苦しくなって、心臓が止まるかと思った。

そういえばマイコから聞いたことがある。推しの甘い台詞は人を失神させる力があると。
その気持ちが何となく分かってしまった。私の心臓は、今にも爆発しそうだ。


「…あ、はは。バレてましたか。いまトマトの収穫時期ですからね。毎日のようにここにいますよ」

「だったら俺も、毎日ここで涼もうかな」

「えっ……」


この人は一体何を仰ってるの?それって、毎日私に会いたいってこと?いやいや、そんなわけないでしょ。

ただの暇つぶしだって分かってる。なのに、私の顔はトマト並に真っ赤だ。


「それにしても、本当に熱心に育てているんだな」

「ええ、まぁ、趣味のようなものなので…」

「なるほど。他にはどんな趣味が?」

「他は…何でしょう。お昼寝とか……?」


推し活です。とは、ご本人の前でさすがに言えなかった。
だから咄嗟に思いついたものを言ってみたけど、それも失敗したかも。顔は見えないけど、成瀬さんがクスクス笑っているのが分かる。


「なかなか渋い趣味だな。まあ俺も好きだけど」


──はうぅっ!
“好き”という言葉に、何故か反応してしまった。別に私に対しての言葉じゃないのに、大袈裟なくらい心臓が跳ねた。

推しの甘い台詞は刺激が強い。頭がくらくらする。
ついでにお昼寝をしている成瀬さんを想像して、さらに脈がはやくなる。

ここまでくると“推し活”を通り越して、ただの変態なのでは…?


「な、成瀬さんは他にどんなご趣味が…?」

「そうだな、賑やかな場所は苦手だから、車でのんびり出来るところに行ったりとか?」


それはドライブってやつですか?ならば是非私も連れて行ってください………じゃないのよ!

< 105 / 314 >

この作品をシェア

pagetop