つれない男女のウラの顔
話を聞いてもらえるだけで、こんなにも気持ちが楽になるなんて思わなかった。その相手が成瀬さんだからというのもあるのかもしれないけど。
母も私に打ち明けることで心の負担を軽くしたかったのかもしれない。だからこそ、そばにいてあげられない分もっと話を聞いてあげたらよかったと、少し後悔が募る。
「父も心配ですけど、同じくらい母のことも気になります。もういい歳だし、あんなに動揺している母は初めてだったので。会って話が出来たら、もう少し安心させてあげられたのかもしれないのに」
「実家は遠いのか?」
「高速バスで1時間半くらいですかね。そこまで遠いわけじゃないんですけど、基本的には年末年始とお盆くらいしか帰省してなくて。でもこんなことになるなら、もっといっぱい会いに行けばよかった…」
会えなくなるかもしれない。そう思った瞬間から会いたくてたまらなくなった。
あの明るい笑顔も、皺が増えた顔や手も、ずっと見ていたい。仲のいいふたりの姿を、目に焼き付けておきたい。
一人娘の私は、両親から計り知れないほどの愛情を注いでもらった。なのにどうして、こういう状況になるまで行動しなかったのだろう。
「だったら、今から会いに行くか?」
「…………え?」
突拍子もないことを言い出す成瀬さんに唖然とした。冗談だと思ったけれど、彼は意外にも真剣な表情をしている。
「俺が車を出すよ。今日は飲んでいないから運転出来る」
「いやでも、明日も仕事がありますし…」
「明後日が休みだから大丈夫。仕事で徹夜する日もあるし、意外とタフなんだ。花梨は隣で寝ていて大丈夫だから」
「だ、ダメですよ。それなら明後日にひとりで帰りますから。それに母も検査結果がわかり次第連絡をくれるって言ってたし、今すぐ行く理由なんて…」
「親に会いに行くのに、理由なんていらないだろ」
その声は穏やかだけど、何か強いものを感じた。思わず口を噤むと「会いたいと思うときに会えばいい」と彼は続けた。