つれない男女のウラの顔
そんなことを考えているうちに、車は実家近くのインターチェンジを降りた。
ひとりで実家に帰るときはバスに乗っている1時間半がとても長く感じるのに、今日はあっという間だった。夜間のため道が空いていたというのもあるけれど、成瀬さんと一緒にいると時間が過ぎるのがとにかく早い。
あまり言葉を交わしていないのに不思議だ。沈黙の時間が苦に感じないからだろうか。
「あ、ここは私が通っていた小学校です」
見慣れた道をどんどん進んでいく。その景色を、成瀬さんと一緒に見ているのが何だか変な気分だった。
母校を見て思い出すのは、赤面する度に男子にからかわれていたこと。家に帰って愚痴を零せば、両親は必ず「赤い顔も可愛い」と言ってくれた。どんなときも味方になってくれる両親が大好きだった。
そういえば、よく“リンゴ”や“トマト”ってからかわれたっけ。そのせいで、成瀬さんにはしょうもないギャグを連発してしまったな。
「…どうして笑ってる?」
「いえ、ちょっと思い出し笑いを」
思わず顔が綻んで、すかさず成瀬さんに突っ込まれた。
もしひとりで実家に帰っていたら、こうして笑う余裕なんてなかったと思う。成瀬さんがいてくれてよかった。と、結局この答えに辿り着く。
そうしているうちに『目的地周辺です』という車のナビゲーションの音声が流れた。気付けば実家の前に着いていて、白い壁の小さな二階建ての家のリビングには、まだ電気がついているのが分かった。
途端に心臓がバクバクと激しく音を立て始める。それを見兼ねた成瀬さんが、再び私の手を取った。
「俺は駅前のマックにでもいるから。花梨はご両親とゆっくり話しておいで」