つれない男女のウラの顔
父に花嫁姿を見せてあげたいという気持ちは私にもある。昼間に結婚式の妄想もしたし、幸せそうに笑う父の顔も想像したくらいだ。
けれど実際は恋愛に不向きで、男性が苦手。初めてお付き合いした人は二ヶ月で別れ、そのままずるずると歳をとっている私が、父の夢を叶えてあげることが出来るだろうか。
婚活でも何でも、もっと早く行動すればよかった。このまま独身のままでもいいと、半ば諦めていたことを悔やんでしまう。今のアパートに住み続け、一生独身宣言をしている成瀬さんとのんびり過ごしたいなんて思っていたけど、そんな考えは甘すぎた。
両親がいつまでも元気でいられる保証はない。
彼らにとって、私はたったひとりの子供。そんな私がずっとひとりでいたら、両親は不安で仕方がないだろう。早く安心させてあげることも親孝行のひとつだ。
「私もお父さんとバージンロードを歩きたい」
「…まさか良い相手が?」
咄嗟に成瀬さんの顔を思い浮かべたけれど、すぐに脳内からかき消した。
「ううん。今はいないけど、お父さんのためにも頑張って探すよ。必ずここに連れて来るから、それまで元気でいてね」
「なんかそれはそれで複雑だな。会いたいような、会いたくないような…」
「出来ることなら孫にも会わせてあげたい。お父さんが孫を抱っこしている姿が見たい」
「そうだな、孫には会ってみたいな。たくさん甘やかして、京香に怒られるのも悪くない。京香に似たら、照れ屋で可愛い子になるぞ。あれ、なんかお父さんめちゃくちゃ健康な気がしてきた。あと20年は死ねないな」
ははは、と豪快に笑う父の手を握ると、とてもあたたかかった。成瀬さんとはまた違い、血管の浮き出した手が愛しく思えた。
こうして父と手を握るのはいつぶりだろう。大人になってからは初めてかもしれない。普段は恥ずかしくて出来ないことも、父の大切さを知った今なら何でも出来てしまう。父の嬉しそうな顔を見て、自然と笑みが零れる。
そんな私達を見て、母も泣きながら笑っていた。家族といる時間が幸せで、私もこんなあたたかい家庭を築きたいなって思った。
いつか父の夢を叶えてあげたい。それまでどうか、元気でいてほしい。