つれない男女のウラの顔
「京香に会えて、今日は本当に幸せだ。サプライズってのは何歳になっても嬉しいもんだな」
この笑顔を見ることが出来て良かった。これも全て、ここへ連れて来てくれて成瀬さんのお陰だ。成瀬さんがいなければ、絶対に私はいまこの場所にいなかったし、それどころか部屋でひとり泣いていたと思う。
──成瀬さん、何してるかな。無理をさせてしまったから、疲れて寝てたりして。…早く会いたい。
父とはまた違う、成瀬さんのぬくもりが少し恋しくなった。
「明日は休みか?せっかくだから、一緒に一杯飲むか?」
「お父さんったら、こんな時間からなんて提案を」
呆れたように突っ込みを入れる母に、父は「いいじゃないか。せっかく京香が帰ってきてくれたんだから」と嬉しそうに笑う。
そんな両親のやり取りを遮るように、私はおずおずと口を開いた。
「お父さん、気持ちは嬉しいけど、明日は休みを取ってないの」
「え?」
ソファから腰を上げ、キッチンに向かおうとしていた父が目を丸くして動きを止めた。「まさかもう帰るのか?」と分かりやすく肩を落とす。
「さすがに早すぎるだろ。この時間は電車もバスもない。泊まって、始発で帰ればいいじゃないか」
「いや、その…友人が待ってくれていて」
「友人?だったらその友人も一緒に…」
「ううん、今日は帰るよ。またすぐに会いに来るから」
再びソファに腰を下ろした父が「寂しい」と零す。あからさまに落ち込む父を見て、一気に寂しさが込み上げてくる。
成瀬さんなら、もっとゆっくりしてから帰ればいいって言うと思う。けれど、これから運転して帰る成瀬さんのことを思うと、長居は出来なかった。
「お父さん」
再び父の手を握る。
「何度でも帰ってくるから、絶対に長生きしてね。お母さんのこと、不安にさせちゃダメだよ」
「…分かってる」
「お母さんも、いつもみたいに明るくしててよ。お母さんが暗いと、それこそお父さんが病気になっちゃう。うるさいくらいお喋りな方が似合ってるよ」
「…私、そんなにお喋りかしら」
母は袖で涙を拭いながら、不服そうに唇を尖らせる。するとすかさず「お母さんはお喋りだよ」と返したのは父で、母はケラケラ笑う父に向かって「だったら話し相手になってくれなきゃダメでしょ。長生きしないと許さないから」と愛のある説教をしていた。