つれない男女のウラの顔
「思ったより早かったな。もっとゆっくりすればよかったのに」
優しく目を細める彼に慌てて駆け寄った。一体いつからここで待機していたのだろう。
「成瀬さん、どうしてここに?マックに向かったんじゃ…」
「花梨の連絡先を知らないことに気が付いて、近くで待ってた。でもずっとここにいたわけではないから安心して」
そう言いながらさりげなく助手席のドアを開けてくれた成瀬さん。そのスマートな行動にドキドキしながらも車に乗り込むと、ドリンクホルダーにはコーヒーのカップが2つ並んでいた。そのカップにはマックのロゴがついていて、車内はコーヒーの香ばしい良い匂いが漂っている。
「よかったら飲んで」
「私の分まで買ってきてくれたんですか?」
「ついでだから」
どこまで気が利くの。なんて良い人なの。
“…まさか良い相手が?”
“良い人、本当にいないの?”
“気になってる人とかは?職場で出会いなんかも…”
両親の言葉が頭を過ぎる。そしてまた成瀬さんを思い浮かべてしまう。
お父さんお母さん、“良い人”はいるんだよ。でも、私は彼と釣り合わない。こうして近くにいるのに、遠い人。恋愛対象には絶対になれない人。
でも両親に紹介するなら成瀬さんのような人がいいと思ってしまう。これから先、彼以上の良い人に出会えるのだろうか。両親を安心させてあげられるような、懐の深いあたたかい人と。
きっと出会うだけでも難しいのに、そこから恋をして、お付き合いをして、婚約を……私にはハードルが高すぎて、想像するだけで挫けてしまいそう。
父の夢を叶えてあげたいけれど、先は長そうだ。
「ご両親の様子はどうだった?」
成瀬さんが車を発進させながら問いかけてきた。視線は前に向いていて、その綺麗な横顔を思わずじっと見つめた。