つれない男女のウラの顔
「母は案の定目が腫れてましたけど、父は思ったより元気そうでした。ふたりとも驚いてましたけど、それ以上に私に会えたことにとても喜んでくれて…」
「それはよかった」
あたたかい家族だな。と続けた成瀬さんが此方を一瞥した。ふいに視線が重なって、ドキッと心臓が跳ねた。
「今日、久しぶりに父の手に触れたんです。だいぶ歳をとってましたけど、とてもあたたかかった。なんだか懐かしい気持ちが込み上げてきて、幸せな気持ちになれました。成瀬さんが“生きていないと出来ないことがある”って言ってくださったお陰です。短い時間でしたけど、たくさん父を感じられて、とてもいい時間を過ごせたと思います」
血管の浮き出た父の手の感触を思い出す。生きているからこそ、その体温を感じられた。改めて両親の大切さを知ることが出来たのは、成瀬さんのお陰だ。
「私をここへ連れてきてくださって本当にありがとうございました。お仕事でお疲れなのに長距離運転させてしまって…」
「親御さんも、花梨に会えて幸せな時間を過ごせただろうな。俺も花梨とドライブが出来てよかった。また何かあったら言って。いつでも連れて来てあげるから」
花梨とドライブが出来てよかったなんて、そんな言い方されたら純粋に嬉しい。でも、どう反応すればいいのか分からない。こういう甘くてくすぐったい言葉は、言われ慣れていないから。
塩対応で、女性を寄せ付けないことで有名なくせに、どうしてそんなに優しくしてくれるの。
特別な意味なんてないことは分かっているけど、思わず照れてしまう。心臓が激しく波打ってる。
顔が熱い。きっと赤面してる。
お願いだから、この熱が引くまでこっちを見ないで。