つれない男女のウラの顔
「私の花嫁姿が見たいって。私とバージンロードを歩くのが夢らしいです。それまで死ねないって、笑ってました」
思わず花梨のドレス姿を想像した。真っ先に浮かんだのは、顔を赤く染めて、幸せそうに笑う姿だった。
華奢な身体に、白い肌。彼女ならどの色のドレスも似合うだろう。出来ることなら、俺も花梨の花嫁姿を見たい。
ただ、その隣に立っている男の姿は想像したくないけど。
“…頑張って、良い人を探すからって…必ず連れてくるからって、約束してしまいました”
“自分でも無謀なことをしたって分かってます”
“でも父に夢だって言われたら、叶えてあげたくなっちゃって…”
もし相手が見付からなければ、俺が行くよ。なんて言ったら、花梨はどんな反応をするだろう。
きっと困らせるだけだよな。
花梨の結婚のことを考えれば考えるほど、なぜか離れがたくなっていた。このままアパートに着かなければいいのにと思うほどだ。
それでもナビは帰る方向を示していて、到着時間がどんどん近付く。
あっという間に見慣れた建物が目の前に現れて、夜のドライブは終了した。
「…ひとりで大丈夫か?」
本当は「一緒にいたい」と言いたかった。頼ってくれたらいいのにと、小さな期待を抱いた。
けれど「全然大丈夫です」と即答されて、心が折れた。
大人ぶってカッコつけて、死ぬほどかっこ悪い。
てか、一緒にいたいって何だ。彼氏でもないのに、どうしてこんなこと…。
いや、深く考えるな。今の俺は深夜テンションで頭がおかしくなっている。これはそういうのではない。特別な感情なんてない。俺には向いてないから。ひとりで静かにひっそりと…そう決めているから。
……でも、離れた瞬間から会いたくなるのは、どうしてなんだろうな。