つれない男女のウラの顔

『すぐに駆けつけてくれて嬉しかったわ。お父さんには娘に心配かけるなって怒られちゃったけど、でも本人もなんだかんだ喜んでたし』

「それならよかった」

『お友達も夜遅くに申し訳なかったわね。よろしくお伝えしておいてね』

「うん、分かった」


“お友達”というのはもちろん成瀬さんのことで、昨日職場でチラッと顔をみたけれど、いつも通りクールに廊下を歩いていた。

私と同じで、恐らく2、3時間睡眠で出社したのだと思う。私は昨日、仕事中に数えきれないほど欠伸をしてしまったけど、成瀬さんの表情は驚くほど寝不足を感じさせなかった。

そこもまたかっこいいんだよね…。


『疲れが溜まってるんじゃない?今日は家にいるの?』

「うん、昼まで寝て、さっきご飯を食べたところ。たくさん寝たから回復したよ」


普段からインドア派のため、今日は部屋着姿のままベッドの上でのんびりしている。休日はマスクも付けなくていいし快適だ。ただ、成瀬さんの顔を見ることが出来ないのは残念だけど。


「お母さんもちゃんとご飯食べて寝てる?お父さんの様子はどう?」

『大丈夫、お父さんも変わらず元気そうだし、私も少し落ち着いたわ。結果が分かるまで不安は消えないけど、泣いていても意味がないしね。それよりも今出来ることをしようと思って』


それでね──と、続けて口を開いた母の声に耳を傾けながら、再び成瀬さんの部屋がある方の壁を見つめる。


『京香、お付き合いしてる人はいないって言ったわよね』

「うん」

『気になる人もいないのよね』

「…うん」


成瀬さんの顔が頭を過ぎったけれど、母の言葉に頷いた。

また質問攻めされるのかな。母の言う“今出来ること”っていうのは、父に花嫁姿を見せてあげたいっていう話のことっぽいから。

焦る気持ちも分かるけど、こんな1日や2日ですぐに相手が見付かるわけがないのに。
お母さんったら、どうしてもお父さんに私の花嫁姿の見せ───…


『だったら匠海くんは?』

「…………え?」

『京香の相手、匠海くんがいいんじゃない?』




< 139 / 314 >

この作品をシェア

pagetop