つれない男女のウラの顔
『すぐに駆けつけてくれて嬉しかったわ。お父さんには娘に心配かけるなって怒られちゃったけど、でも本人もなんだかんだ喜んでたし』
「それならよかった」
『お友達も夜遅くに申し訳なかったわね。よろしくお伝えしておいてね』
「うん、分かった」
“お友達”というのはもちろん成瀬さんのことで、昨日職場でチラッと顔をみたけれど、いつも通りクールに廊下を歩いていた。
私と同じで、恐らく2、3時間睡眠で出社したのだと思う。私は昨日、仕事中に数えきれないほど欠伸をしてしまったけど、成瀬さんの表情は驚くほど寝不足を感じさせなかった。
そこもまたかっこいいんだよね…。
『疲れが溜まってるんじゃない?今日は家にいるの?』
「うん、昼まで寝て、さっきご飯を食べたところ。たくさん寝たから回復したよ」
普段からインドア派のため、今日は部屋着姿のままベッドの上でのんびりしている。休日はマスクも付けなくていいし快適だ。ただ、成瀬さんの顔を見ることが出来ないのは残念だけど。
「お母さんもちゃんとご飯食べて寝てる?お父さんの様子はどう?」
『大丈夫、お父さんも変わらず元気そうだし、私も少し落ち着いたわ。結果が分かるまで不安は消えないけど、泣いていても意味がないしね。それよりも今出来ることをしようと思って』
それでね──と、続けて口を開いた母の声に耳を傾けながら、再び成瀬さんの部屋がある方の壁を見つめる。
『京香、お付き合いしてる人はいないって言ったわよね』
「うん」
『気になる人もいないのよね』
「…うん」
成瀬さんの顔が頭を過ぎったけれど、母の言葉に頷いた。
また質問攻めされるのかな。母の言う“今出来ること”っていうのは、父に花嫁姿を見せてあげたいっていう話のことっぽいから。
焦る気持ちも分かるけど、こんな1日や2日ですぐに相手が見付かるわけがないのに。
お母さんったら、どうしてもお父さんに私の花嫁姿の見せ───…
『だったら匠海くんは?』
「…………え?」
『京香の相手、匠海くんがいいんじゃない?』