つれない男女のウラの顔
突拍子もないことを言い出す母に唖然とした。
どうして今、匠海くんの名前が出てくるだろう。
「お母さん、匠海くんは…」
『あなた達、幼い頃によく“結婚しよう”って言い合っていたでしょ?だから…』
「それは昔の話でしょ?今はそういうのじゃ…」
『それに今でも連絡を取り合っているらしいじゃない。大人になってもそういう関係が続いてるって素敵なことよ?気が合う証拠だわ』
「連絡っていっても、数ヶ月に一度の頻度だよ。匠海くんは面倒見のいい人だから、私の生存確認をしてるだけで…」
『とりあえず会ってみるのはどう?ていうかね、実はいま近くに匠海くんがいるの。せっかくだから匠海くんに電話代わるわね』
「え?!」
『たまたま家の前で会ったのよ。世間話していたら京香の話になってね。匠海くんもいま彼女がいないみたいだから、もしかしてこれは…と思って』
とんでもない展開になってしまった。勝手に盛り上がって話を進める母を止められない。もはや暴走だ。思考が追いつかない。
きっと匠海くんも母に気を使って断れない状況になっているんだ。だとしたら、ここは敢えて匠海くんに代わってもらって、ちゃんと事情を説明した方がいいのかもしれない。
『じゃあ代わるからちょっと待ってね』
昨日までのテンションはどこへいったのか、母の声は活き活きとしている。普段の母らしいといえばそうなのだが、父を思っての行動だと思うと、焦りも見えて胸が苦しい。
ていうか匠海くんと話すのっていつぶりだろう。数ヶ月に一度メッセージのやり取りをすることはあっても、電話をすることはなかった。私が実家に帰った時も顔を合わすことは滅多にないし。
幼なじみで、私の秘密を知っている人だと分かっていてもさすがに緊張してしまう。ただでさえ男性が苦手で、コミュ力もないのに。
──どうしよう。顔が熱くなってきた。