つれない男女のウラの顔
途端にそわそわし始めて、額に冷や汗が滲む。充電がなくなったと嘘をついて、このまま電源を切ってしまおうかと思った。
『──もしもし』
けれど、程なくして懐かしい声が鼓膜を揺らし、思わず息を呑んだ。
昔より少し大人びた声。だけど変わらず穏やかな声音は、顔を見なくても爽やか好青年なのが伝わってくる。
『京香?久しぶり』
「た、匠海くん。ひさしぶり…ですね」
どもりながらも何とか返事をすると、匠海くんは声を出して笑い『なんで敬語?』とすかさずツッコミを入れた。
匠海くんのくしゃっと笑った顔が浮かぶ。彼は昔からいつだって笑顔が絶えなくて、太陽のような人だった。
匠海くんに名前を呼ばれるのはいつぶりだろう。物心ついた時から私のことを呼び捨てしていたから違和感はないけど。
『元気にしてたか?』
「うん…元気だよ」
『よかった。たまに生存確認するけど、声聞くとやっぱ安心するな』
人懐っこい雰囲気も変わらない。コミュ障の私とは全然違う。会話がスムーズだ。
そんな彼は小学生の頃からずっと剣道をしていて、大会で優勝するほどの実力の持ち主だった。その頃から爽やかで真っ直ぐで、無邪気で明るくて。私には無いものをいっぱい持っていて、そんな彼が幼なじみであることをずっと誇りに思っていた。
「匠海くんは元気だった?仕事がんばってる?」
『うん、元気。仕事はぼちぼちかな』
匠海くんは警察官だ。幼い頃から警察官になるのが夢だと言っていたから、その夢を叶えた彼は純粋にかっこいい。真面目で真っ直ぐな彼にピッタリな職業だと思う。
『京香は相変わらずマスクつけてコソコソしてんの?』
「コソコソって……まぁそうだけど」
『ほんと勿体ないよな。京香の笑顔は可愛いのに』
「かっ…?!」
匠海くんって昔からこういうところがある。ストレート過ぎて、正直反応に困る。