つれない男女のウラの顔

「そ、そんなことよりお母さんがごめんね。またいつもみたいに強引に引き止めたんでしょ?ほんと困るよね。匠海くんも適当に聞き流してくれたらいいから」


どうにか話を逸らして誤魔化した。匠海くんは受話口の向こうでやっぱり笑っている。


『いや、全然強引なんかじゃねえよ。俺も京香に話したいことがあったし』

「え…?」


話したいこと?てっきり母の大暴走だと思っていたから拍子抜けしてしまった。
いやでも匠海くんの近くに母はがいるから、これは彼なりの気遣いなのかもしれない。

匠海くんは人に合わせるのが上手いから、彼の言葉を素直に受けとらず深読みしてしまう。

けれど、


『実は来週末ちょうどそっちに行く予定があるんだ。京香暇してる?会いたいんだけど』

「来週末…?」

『そう。京香の休日、一日俺にちょうだい』


話したいことがあるというのは、本当だったらしい。

一日ちょうだいって、朝から晩までということだろうか。あまりにも突然の誘いに、言葉に詰まってしまう。


「い、一日…ですか?」

『そう。一日』


この感じ、冗談ではなさそうだ。

匠海くんと一日一緒?学生の時でもそこまで一緒にいることはなかったのに。

基本インドアでコミュ障の私が、誰かと一日過ごすなんて無理ではないかと急に不安になる。きっと目も合わせられないし、何を話せばいいのか分からない。いくら相手が匠海くんでも終始赤面してしまいそうで怖い。

これは予定があると嘘をついてでも断るべきだろうか。それはさすがに幼なじみに対して失礼かな。せめて時間を短くしてもらいたいけどそれって有り?

どうしよう、テンパって頭が回転しない。完全に思考が停止している。


『京香、俺とデートしよう』


で、デート!?

返事をしない私に、追い討ちをかけるように匠海くんはそう言った。

これまたストレートな言葉に、ぶわっと一気に顔が熱くなった。
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