つれない男女のウラの顔
『お相手が匠海くんなら安心だし、お母さん嬉しいわ。家族ぐるみで仲良く出来るし、想像しただけでわくわくしちゃう』
「お母さん、気が早いよ…」
匠海くんは昔から母のお気に入りだったから余計に嬉しいのだろう。匠海くんのご両親とも仲がいいし、父も匠海くんを可愛がっていたし、両親にとってはいい事ばかりなのだろうけど……正直、匠海くんを恋愛対象で見たことなんて一度もないし、それは匠海くんも同じだと思う。
でも今から新しい出会いを求めるより、このまま匠海くんと上手くいった方がいいとは思う。彼は本当に優しい人だし、私の性格も理解しているし、両親に反対されることもないだろうし。
───だけど、さっきからどうしても成瀬さんが頭に浮かぶ。匠海くんと会話をしている間も、ずっと成瀬さんのことを考えていた。
彼の笑顔や赤く染まった頬。優しい柔軟剤の匂いに、一緒に食べたすき焼き弁当や、夜のドライブ。そういえば一緒にスーパーにも行ったっけ。あの日貰った付箋も、まだ部屋に飾ってある。
ここに越してきてまだ一ヶ月も経っていないのに、彼と過ごした時間は私にとってとても濃厚で忘れられないものになっていた。匠海くんと一緒にいた時間の方がはるかに長いのに、彼との思い出の方が記憶に残っている。
あの手のぬくもりが恋しい。低く掠れた声が聞きたい。
成瀬さんのことが、頭から離れない。