つれない男女のウラの顔

『デートの報告楽しみにしてるわね』


母の声にハッとした。

温度差が激しくて苦笑してしまう。きっと電話の向こうで匠海くんも困っているだろう。


「お母さんも、お父さんのことで何かあったらすぐに連絡してね」

『もちろんよ。検査結果が分かったらすぐに報告するわ。じゃあね』


一方的に通話を切られ、思わず溜息が出た。再びベッドに転がり、ぼんやりと窓の外を見つめる。


「とんでもないことになってしまった…」


匠海くんとの“デート”まで、あと一週間。
強引な母に呆れつつも、その行動力に感心してしまう。

匠海くんも断ってくれればよかったのに。
デートしようだなんて、むしろ煽ってくるからほんと困る。

父のためと思えば頑張れるけど…どうしてこんなにも気が乗らないのだろう。









結局一日中のんびりして過ごしてしまった。まぁこれが私の平常運転なのだけど、果たしてこんな女がデートなんてできるのだろうか。ドラマや漫画のお陰で何となく想像は出来るけど、とにかく未知過ぎる。


「はぁ」


ベランダで外の風を受けながら溜息を吐いた。あの電話から溜息を零してばかりだ。来週末のことを考えたら自然と出てしまう。


───成瀬さんの声が聞きたいな。


なんて思っていた矢先のことだった。隣の部屋から窓が開く音が聞こえてきて、思わず息を呑んだ。


「お…お疲れさまです…」

「あぁ、花梨いたのか」


先に声を掛けると「お疲れ」と穏やかな声音が耳に届いた。

やっぱり成瀬さんの声を聞くと心が安らぐ。ドキドキするのに、気持ちが落ち着く。


「今日はずっと部屋にいたのか?」

「はい。一日中ゴロゴロしてました」

「ここ数日バタバタしてたもんな。少しは疲れが取れたか?」

「はい、お陰様でだいぶ楽になりました」


初めはベランダでの会話が楽しかった。顔が見えないお陰で変に緊張しないからだ。

だけど今は、この壁が、この距離がもどかしい。
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