つれない男女のウラの顔
「あれから親御さんの様子はどうだ?」
「昼間に母から電話がありましたが元気そうでした」
「そうか、それならよかった」
「先日家まで送ってくれた方にもよろしく伝えて欲しいと言っていました。改めてありがとうございました」
「そんなかしこまらなくても…今度はもっとゆっくり出来る時に連れて行くから」
確かあの日も“いつでも連れて来てあげる”と言ってくれた。社交辞令かもしれないけれど、私はその言葉が嬉しい。その優しさももちろんだし、また成瀬さんとドライブが出来るのかと思うと、自然と心が弾む。
もしも匠海くんとデートして、後に付き合うことになったら…もう成瀬さんとそういうことも出来なくなるんだよね。
そう思うと、なんだか寂しい。
「…はぁ」
思わず溜息を吐いて、すぐにハッとした。
しまった。今日一日ずっと溜息を吐いていたから、その勢いで成瀬さんの前でも出てしまった。しかもめちゃくちゃ大きいやつ。
今のは絶対に成瀬さんに聞かれた。優しくて鋭い彼のことだから、心配をかけてしまうのでは…。
「花梨、大丈夫か…?」
「いや、これはその…」
案の定声を掛けられて罪悪感を覚えた。
私が父のことで悩んでいると思っているのかもしれない。
困ったな。溜息の理由が“幼なじみとデートをすることになったから”だなんて言えない。学生や20歳くらいの若い子ならまだしも、アラサーが上司に相談するにはあまりにも内容が薄くて恥ずかしい。
いやでも、元はと言えば父の夢を叶えてあげたいという気持ちから始まったこと。
それに成瀬さんは、私が男性を苦手なことも、今までにデート経験がないことも知っている。
今更恥ずかしいと感じるの方がおかしいのかも。ていうか、今までも散々恥ずかしいところを見せているのだから、成瀬さんもこんなことでは驚かないだろう。
「……実は来週末に、幼なじみと会うことになりました」
開き直って話し始めると、成瀬さんは「そうか……それでなぜ溜息?」と返した。
「幼なじみっていうのが、男性で…」
「………え?」