つれない男女のウラの顔

成瀬さんの声がワントーン低くなった。私に男性の幼なじみがいることに吃驚したのかも。


「恐らく食事に行くだけになると思いますが“デートをしよう”って言われたせいで、なんだか緊張しちゃって」

「……」


成瀬さんから返事はない。元々静かな人だけど、さすがに相談内容が幼稚過ぎただろうか。


「実家からの帰りの車内で、父の夢の話をしたのを覚えていますか?」

「あぁ…花梨の花嫁姿が見たいっていう…」

「そうです。それで母が張り切っちゃって、早速相手探しを始めて…そしたら幼なじみがフリーっていうのを知ったみたいで、それで…」


改めて言葉にして思う。母の行動力が凄まじいことを。


「私とその幼なじみは、幼い頃によく“結婚しよう”って言い合ってたみたいで。子供の頃のことなので私はハッキリ覚えていないのですが、母の方が真に受けちゃって…だからでしょうね、今日の母が少し元気だったのは」

「…なるほど」


成瀬さんの返事は淡々としている。成瀬さんらしいと言えばそうなのだけど、少し気まずい空気が流れているような気がするのはどうしてだろう。


「…父のために、頑張ってみようとは思うんですけど。デートなんてしたことがないので、あまり気が乗らなくて…」

「でも、仲のいい相手なんだろ?」

「たまに連絡を取り合うくらいで久しく会っていなかったので、さすがに緊張します。何を話せばいいのかも分からないし、目も合わせられない気が…。でも全く知らない人と会うことを考えたら…」

「花梨が仲良くしてきた相手ということは、少なからず心を開いているということだろうから…きっといいやつなんだろうな」

「……そうですね、私の“秘密”も知っていますし、明るくて優しい人ではありますけど…」

「秘密…良き理解者ってことか。その幼なじみと会うことで、少しでも親御さんが安心してくれるならよかったじゃないか。頑張らないとな」

「…はい」


うん、その通りだと思う。両親のために頑張らないと。

応援してくれる成瀬さんはやっぱり優しい。きっと私の性格を理解した上で背中を押してくれた。

……なのに、どうしてこんなにも胸が苦しいの?

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