つれない男女のウラの顔
どうしてこのタイミングで気付いてしまったのだろう。好きな人がいるにも関わらず、他の人とデートの約束をして、しかもそれを本命の人に相談するなんて。
だから匠海くんとの関係を応援されると、突き放された気持ちになって苦しかったんだ。
バカだ。こんなのただの自爆じゃん。
“……そうだな。それで花梨も、花梨のご両親も幸せになれるのなら”
私が幸せになるにはあなたが必要です。と言えたらどんなに楽だろう。
出来ることなら成瀬さんを両親に紹介したい。あの日も私を実家まで送ってくれたのはこの人だったのだと、両親に伝えたい。
包み込むような優しさを持ったあたたかい人だって教えたい。
いくら匠海くんが母のお気に入りだとしても、きっと成瀬さんのことも気に入ってくれると思うから。
……でも、私が成瀬さんを好きだからと言って、彼と結ばれることはない。彼は一生独身を貫く覚悟を持っているからだ。
父のためにも早く結婚相手を見つけたいのに、報われない恋をしていたって意味がない。時間の無駄になるだけ。
──そう分かっていても、成瀬さんと一緒にいたいと願ってしまう。一生独身でもいいから、彼の隣の部屋に住み続けてずっと穏やかに過ごしたいと、非現実的なことばかり考えてしまう。
私ってこんなにも貪欲な女だったっけ。
「…今日も暑いな」
私が何も言わなくなったからか、成瀬さんがぽつりと呟いた。その声が愛しくて、目頭が熱くなった。
恋愛経験がほぼ未経験の私。このままだと初デートの相手は匠海くんになるだろう。
その後はどうなるのか分からないけれど、初めてのキスも、それ以上のことも、これから経験する初めては、全て成瀬さん以外の人なのかと思うと、胸が張り裂けそうになった。
出来れば初めては成瀬さんがいい。
この恋が報われなくても、初デートだけでも成瀬さんと経験したい。
なんて思うのはわがままなのだろうか。
「……成瀬さん」
恐る恐る声を掛ける。
「ん?」と優しい声が返ってきて、息を呑んだ。
「成瀬さんにお願いしたいことがあります…」
「お願いしたいこと?」
「はい。あの……よければデートの練習相手になってくれませんか」
「……え?」
「私と、デートしてください」