つれない男女のウラの顔
───分かってる、はずだった。
「実は来週末に、幼なじみと会うことになりました」
「幼なじみっていうのが、男性で…」
悪い二輪。全然分かってなかったみたいだ。
花梨からこの言葉を聞いた瞬間、息が止まるかと思った。頭をガツンと殴られたような感覚だ。
“私の花嫁姿が見たいって。私とバージンロードを歩くのが夢らしいです。それまで死ねないって、笑ってました”
帰りの車内で彼女は確かに言っていた。その話を聞いて、花梨のドレス姿を思い浮かべたのも覚えている。
だけどまさか、ここまで早く話が進むと思わないだろ。
花梨が男と会うのも気になるが、そもそも男の幼なじみがいることに衝撃を受けた。
しかも幼い頃から“結婚しよう”と言い合っていて、花梨の秘密も知っていて、たまに連絡を取っているって何だ。男が苦手だったんじゃないのかよ。
挙句の果てに“匠海くん”呼び。次から次へと入ってくる情報に、頭が追いつかない。
それだけ親しい仲ということは、その男は花梨のあの赤く染まった顔を何度も見ているということか?たまに見せる屈託のない笑顔も、雷に怯える姿も、目を腫らした泣き顔も…?
知っているのは俺だけじゃないのか。そう思うと、無性にむしゃくしゃした。
どうしてこんなにも心が落ち着かないのか分からない。……いや、何となく答えは出ているが。
「……よければデートの練習相手になってくれませんか」
混乱している頭を一旦落ち着かせようとしていた矢先、花梨から突拍子もないことを言われ、完全に思考は停止した。
デートの練習ってなんだ。男に慣れるためって、そんなに本番のデートを楽しみにしてんのかよ。その男が、そんなに大事?
「私には頼める相手が成瀬さんしかいなくて…いえ、成瀬さんがいいんです。な…成瀬さんの一日を、私にくれませんか」
──その言い方は、狡すぎるだろ。