つれない男女のウラの顔
episode9
──成瀬さんの様子が、なんかおかしい。
変なお願いをしてしまったことを少し後悔していたけど、成瀬さんも意外とノリノリで安心した。けれど嬉しい反面、少し戸惑っている。だって、まさかこんな展開になるとは思っていなかったから。
(これから成瀬さんの部屋に行って、一体何をすればいいの…?急展開過ぎて頭が追いつかない…)
デートだけでも充分なのに、成瀬さんの部屋で“同じ空間に異性がいる特訓”って控えめに言ってやばくないですか。どう考えても刺激が強すぎるでしょ。
他の男性ならまだしも、相手は好きな人。そんなの男性に慣れるどころか、彼に対する好きが増して、キャパオーバーになる未来しか見えない。
やっぱり断った方がよかっただろうか。いやいや、せっかく好きな人と同じ時間を過ごせるのだからここは喜ぶところよ。
頭の中でもうひとりの自分と会話をしながら、彼の部屋の前で足を止める。だめだ、緊張して心臓が破裂しそう。
一度大きく深呼吸してから、おずおずとインターホンを押した。程なくしてドアが開き「どうぞ」と顔を出した彼を見て思わず息を呑んだ。
やっぱり壁越しで会話をするのとはレベルが違う。好きだと自覚した直後だからか、成瀬さんがいつも以上に輝いて見えて、とにかく眩しい。
「お邪魔します…」
恐る恐る足を踏み入れた瞬間、ふわっと彼の部屋の匂いが鼻腔をくすぐった。たったそれだけのことで熱を帯び、あっという間に顔が赤くなる。
「先にソファに座ってて。俺は飲み物を持ってくるから」
「承知しました…」
緊張で口調がおかしくなってしまう。言われた通りにソファに腰を下ろしたけれど、全然気が休まらない。
彼と一緒にいられるのは嬉しいけど、喜び半分、罪悪感半分というのが正直な気持ちだ。
成瀬さんごめんなさい。
男性に慣れたいだなんて嘘です。
ただ少しでも成瀬さんのそばにいたかっただけ。成瀬さんとの思い出を作りたかっただけなんです。
貴重な休日なのに、私のわがままに付き合わせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいです。
今日もまた成瀬さんの優しさに甘えてしまいました。
この嘘がバレたら、幻滅されてしまうだろうか。