つれない男女のウラの顔

「職場にいる時の花梨からは想像出来ない表情だな。見ていて面白い」

「ありがとうございます…」


褒められているのかはよく分からないけれど、成瀬さんが楽しそうに笑っているから結果オーライ?

でも今のところ全然特訓になってない気が…。予想通り、慣れるどころか好きが増してる。

このままではデートの練習どころか、どんどん気持ちが強くなって本当に抜け出せなくなりそうだ。

こんな気持ち、元彼にも抱かなかったのに。
これが本当の恋というやつなのだろうか。


気付けばベッドシーンは終わっていて、成瀬さんは再びテレビに視線を移した。
映画に集中しているのか、じっと画面を見つめている。テレビの音だけが部屋に響いていて、私はその真剣な横顔をこっそりと見つめた。


成瀬さんに触れたい。一昨日の夜のように、その骨ばった大きな手を、私の手に重ねてほしい。

…欲を言えば、その手を握りたい。

顔の熱が引いたところで、気づかれないように少しずつ成瀬さんに近付いた。やっぱり私、意外と行動力があるかも。


「……っ、」


勇気を振り絞って、私側にある成瀬さんの手に自分の手をツンと当ててみると、成瀬さんの体がピクッと反応した。

思わず視線を伏せたけど、私の手は彼に触れたまま。


「成瀬さん…よければ、特訓させてください…」


テレビの音に掻き消されそうなほどの小さな声でお願いしてから、彼の小指をそっと自分の小指に絡めてみた。本当はもっとがっつり繋ぎたいけど、今の私にはこれが限界。

成瀬さんから返事はないけど、手を振り払われないことが私にとって物凄く嬉しかった。やっと触れられた熱に、心が満たされていく。

恐る恐る成瀬さんに視線を向けると、彼は反対の手を額に当てて顔を隠していた。そこから覗く耳や首が、驚くほど真っ赤に染まっているのが分かって息を呑んだ。


「成瀬さん、それ…」

「こら、こっちを見るんじゃない」


ここまでずっと余裕そうにしていたくせに。


照れた姿が愛しくて、思わず頬が緩んだ。
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